自由な場所と逃げたい私

適応障害とか言われてる20歳女子の精神病棟入院記。10月20日退院。

綺麗な手。初めての赤。

入院してから1ヶ月半ほどが経とうとしていますが、長年治らなかった癖がいつの間にか、あっさりと消えました。

私には物心ついたときから、イライラしたり何かに集中していたりすると無意識に爪を噛んでしまう癖がありました。爪だけならまだしも、指先の肉まで齧ることすらしばしばでした。おかげで指先は他人に見せられたものではありません。いつも、どこかの指からは血が出ていて、絆創膏だらけの汚い手でした。それがコンプレックスなのに治すことができず、なおさらストレスは溜まっていくのです。人前で噛むことは絶対にしませんでしたが、1人でいると常にガジガジと口元に指先がありました。
しかし、入院して友達ができ、朝起きてから夜寝るまで一緒の生活が続きます。人前では爪を噛むことはないので、知らないうちに爪は伸び、血だらけだった指先は健康的に修復していました。私の入院する精神病棟では、作業療法活動が活発です。油絵、ドラム、生け花など様々な活動が毎日行われています。その中に、ビューティーサロンという活動があります。メイクやヘアメイク、顔剃り、足湯などの美容に関する作業療法の中に、マニキュアなるものがありました。「あぴんちゃん、お揃いで塗ろうよ!」友達が真っ赤なマニキュアを手にして微笑みます。あ、赤!?困惑しつつも、私は爪の甘皮を丁寧に切り、ヤスリで爪の形を整えてみました。友達は私の手を見て声を上げます。「わー!指、細くて綺麗!女爪だね!いいなぁー!」私が今まで手の綺麗な女の子にひたすら言ってきた言葉です。うれしくて泣くかと思いました。そして、私と友達はお互いの爪に真っ赤なマニキュアを塗りあいました。私は両手を目の前にかざしてみます。白く、真っ直ぐな指の先端でキラっと赤が輝いています。これが自分の手だとは信じられませんでした。一番のコンプレックスが、誰かに見せたくて見せたくて仕方ないものに変わったのです。
1日中、誰かといるから治っただけかもしれません。シャンプーもスマホの操作もやりにくいです。でも、爪が伸びて不便なことよりも、自信を持って他人に手を見せられることのほうがはるかに価値あることです。退院して、また実家でひとりになって体調を崩しても、爪だけは傷つけたくないと思っています。どこかで手は今の自分を表すものだと聞いたことがありますが、本当にそうだと思いました。今の私は安定して、美しい。自信を持って言えます。